領域概要

 反応活性を有するイオン、つまり「活イオン」を含む機能性液体材料は、リチウムイオン電池などの電気化学デバイスの電解液や、有機・無機化学反応の溶媒や触媒として用いられ、その性能や特性を支配する重要な材料です。近年、「活イオン」を濃縮した液体材料である「活イオン液体」が、リチウムイオン電池に大きな変革がもたらしています。リチウムイオン電池における「活イオン液体」とは、電池反応に寄与するリチウムイオンを含む塩(電解質)に、ごく少量の溶媒を加えて液化した溶液(電解液)のことです(図1)。一般的な溶液と、イオンのみからなるイオン液体の境界領域に位置します。この「活イオン液体」は、高反応活性と高安定性という相矛盾する電解液機能を発現し、リチウムイオン電池の性能と安全性を非連続的に向上させるとともに、革新的な蓄電池概念の実現にも資することが期待されます。さらに、「活イオン液体」の概念は、有機化学や無機化学における溶媒や触媒にも展開され、既存の液体材料では成し得ない“溶解”や“化学反応”が創出されつつあります。このような極めて高い社会的価値の創出が期待されている一方、「活イオン液体」がなぜ特異的な性質を有するのかについては未だ不明であり、その広範な応用展開に向けた基礎学理や知識体系、設計指針は一切確立されていません。

 本研究では、「活イオン液体」の統合的概念の確立を目的とします(図2)。新たな塩・溶媒の設計・合成により、多様な応用展開を可能にする新奇「活イオン液体」材料群を開発し、新たな液体機能を開拓します。また、物理・電気・有機・無機化学などの基礎化学的視点から、「活イオン液体」、およびそれが作り出す特殊な界面「活イオンリッチ反応場」の構造・挙動を精査することで、液体機能の自在制御を可能にする新たな液体材料学「活イオン液体の科学」を創成します。